たしかめるように

たしかめるように。 絶望の淵に立ちなかを覗くと、そこには、当たり前のようにささやかな日常がありました。私は、世界にとって唯の細胞でありたい。

海開き

次はー
次はー
 
お降りの方いらっしゃいませんかー
 


この時間、この目的地。
誰かきっとボタンを押してくれるだろう。
 
ピンポーン
 
やはり。
よしよし。
 
心の準備はできていて
わたしはもうすぐこのソファから
腰を浮かせなければならない。
ここでの1分というのは
かなり、かなり余裕のある長さだ。
 


目的地についた。
 
なぜだか私は慌てなければならない。
ソファの上に置いてある鞄とiPhone
弁当だけが入った可愛いビニール袋と
たらたら濡れるアイスコーヒーを持たなくてはならない。
 

よし。

なんとか間に合う。

いくぞ。

 

と思い立ち上がった瞬間


どどどどっと
マイペースで力強い波が押し寄せてくる。
逆流だ。


必死に泳ぐ。

泳ぐが、あと少し
あと少しの対岸まで
波に飲み込まれてしまって
たどり着けそうもない。
 
ん、、、
あと、すこし、、、
ぐぐ、、、
 
 
よろしいですかー
ドアが閉まりまーす
 
私は、その声の主の横まで泳ぎきっていた。
右手には、魔法のカードを入れた小さなお財布を握って。


ピッと音がなる2秒前だったはずだ。
いや、1秒前か。
 
 
はっと、後ろを振り向く。
 
私の進行方向と逆に激しく流れ
私を飲み込みかき消そうとした波たちは
何事もなかったかのように
大人しく、涼しく、半ば清々しい顔をして

落ち着いていた。
 
 


え?あ、おろしてください!!
 
いうべき言葉を言う気になれず
僅かにおかしくなって、
でもそれよりも淡々とした気持ちで
この波たちとともに
このまましばらく、

揺られてみるのもいいかと思った。
 
この行き場のない右手を上にあげ
クロールでもしてしまおうか。
 
 
息継ぎをしたら、
セミが鳴いていた。

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